「パワハラ防止法」制定の背景

「パワーハラスメント(パワハラ)」という言葉は、日本社会において広く浸透しています。この言葉は、職場での力(Power)関係を背景に行われる不当な行為を指すものとして、2000年代に日本の企業が提唱した和製英語です。

日本の職場文化は、長く上下関係を重んじる性格を有していました。海外に比べて転職が少なく、終身雇用、年功序列や長時間労働などが一般的だった日本の職場では、支配的な人間関係が生じやすく、「パワハラ」が発生しやすい土壌を作り出していると指摘されてきました。この10年以内にも、大企業や公的機関で職員の過労自殺が生じ、その背景にパワハラがあったとされるケースが複数報道され、社会的な注目を集めています。

近年、日本ではパワハラに関する法的整備が進行しています。その中心にあるのが、2020年に施行された「改正労働施策総合推進法」(いわゆるパワハラ防止法)及び同法に基づき厚生労働省が定めたパワハラ防止に関する「指針」です。同年の改正で、パワハラが初めて法的に定義され、企業には防止措置を講じる義務が課されました。

本コラムの前編では、パワハラの定義、類型、および事業者が果たすべき義務について解説します。

パワハラの定義

労働施策総合推進法の規定によれば、パワハラは以下の全ての要件を満たすものであると定義されています:①職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるもの。

なお、①の優越的な関係を背景とした言動については、上司から部下だけではなく、先輩・後輩間や同僚間、さらには部下から上司に対して行われるものも該当します。

パワハラの6つの類型

職場におけるパワハラの代表的な言動の類型として、「指針」では以下の6つを挙げています:(1)身体的な攻撃(暴行・傷害など)、(2)精神的な攻撃(脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言など)、(3)人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視など)、(4)過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害)、(5)過小な要求(業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと)、(6)個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)。

事業者の義務

全ての事業主には、パワハラを防止するための以下の取組みを行う義務が課されています(2020年6月にまず大企業が対象になり、2022年4月からは中小企業も対象に加わりました)。

(1)事業主の方針の明確化及びその周知・啓発

(2)相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制(相談窓口)の整備

(3)職場におけるハラスメントへの事後の迅速かつ適切な対応

(4)併せて講ずべき措置(プライバシー保護、不利益取扱いの禁止等)

なお、事業主がこれらの義務を履行しなかったとしても、罰則はありません。ただし、厚生労働大臣は、必要があると認めるときは事業主に対して助言、指導又は勧告をすることができます。勧告に従わなかった場合にはその旨が公表される可能性があり、企業にはレピュテーションの毀損に対するリスクが生じることになります。

このように、日本ではパワハラの防止のための法整備が進められています。しかし、制度が整ってきてもなお、現場ではさまざまな課題が残っているのが現実です。後編では政府の調査報告や報道をもとに、日本の職場におけるパワハラの現状について考えていきたいと思います。

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