一、導入の背景と目的

日本政府はコーポレートガバナンスを、「企業が『稼ぐ力』の強化に向けて自社の競争優位性を伴った中長期目線での成長戦略を構築・実行し、『攻めの経営』に取り組むための基盤」であるとしています。

2013年の「日本再興戦略」で、政府はコーポレートガバナンスの強化を重要な課題として位置づけ、翌2014年の改訂版で東京証券取引所がコーポレートガバナンス・コード(企業統治指針、以下「CGコード」)を策定する旨を明記しました。これを受け、金融庁および東京証券取引所が有識者会議を設置して原案を作成し、2015年6月に東京証券取引所によって正式導入に至りました。

「CGコードは、「会社が株主をはじめ顧客・従業員・地域社会などの立場を踏まえ、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための仕組み」であると定義されています。

CGコードは導入以来、これまでに2回(2018年、2021年)改訂されています。

二、CGコードの基本的な特徴

CGコードには、以下の2つの特徴があります。

  1. コンプライ・オア・エクスプレイン
    CGコードは法律ではなく、法的拘束力を伴いません。その代わり、東京証券取引所の上 場規則により、「コンプライ・オア・エクスプレイン(遵守か説明か)」の原則が採用されています。各企業は原則に従うか、従わない場合はその理由を「コーポレートガバナンス報告書」で説明する義務を負います。
  2. プリンシプルベース
    CGコードは詳細な規定を設ける「ルールベース(細則主義)」ではなく、企業が自社の状況に応じて、実効的なコーポレート・ガバナンスを実現することができるよう、抽象的な表現・内容により、幅広い解釈の余地を与えるという「プリンシプルベース(原則主義)」という考え方に立っています。

三、CGコードの内容と改訂のポイント

CGコードは、「基本原則」と、それに紐づく「原則」、「補充原則」の三層構造で構成されています。「基本原則」(第1層)は5項目で、①株主の権利・平等性の確保、②株主以外のステークホルダーとの適切な協働、③適切な情報開示と透明性の確保、④取締役会等の責務、⑤株主との建設的な対話です。そして、基本原則をもとに31の「原則」(第2層)とその下の47の「補充原則」(第3層)が体系的に整理されています。なお、市場区分(プライム市場、スタンダード市場、グロース市場)ごとにコンプライ・オア・エクスプレインが必要な範囲は異なっています。

CGコードの内容は多岐にわたりますが、特に最新の2021年の改訂では、次のような点が注目されました。

  1. 取締役会の機能発揮
    • 経営から独立した立場の社外取締役を2人以上選任することを求めています。さらに、プライム市場上場企業には、取締役会の3分の1以上を社外取締役とすることが要請されました。
    • スキルマトリックスと呼ばれる「経営戦略に照らして取締役会が備えるべきスキル(知識・経験・能力)と、各取締役のスキルとの対応関係」を公表するよう求めています。
  2. 企業の中核人材における多様性の確保
    • 管理職における多様性の確保(女性・ 外国人・中途採用者の登用)についての考え方と測定可能な自主目標、その状況の開示を求めています。

四、運用上の課題と今後の展望

CGコードの導入開始から10年が経過しました。企業が投資家の声をより気にするようになったという声や、取締役に対する監督機能が高い「委員会設置会社」や社外取締役の数が増加したという声もあります。一方で、改訂を経て項目が細かくなるにつれ、企業が形式的な対応しかしておらず、当初の目的である「稼ぐ力の強化」、「攻めの経営」という理念を強化すべきだとも指摘されています。

金融庁は2026年半ばをめどに5年ぶりの改訂を予定しており、企業の稼ぐ力の強化を目的に現在検討を進めています。また、経済産業省も「「稼ぐ力」の強化に向けたコーポレートガバナンス研究会」の成果として、2025年4月に「「稼ぐ力」を強化する取締役会5原則」、「「稼ぐ力」の強化に向けたコーポレートガバナンスガイダンス」を策定しました。

日本の「コーポレートガバナンス」をめぐる動きは、体制の整備から次の段階に進もうとしており、今後の動向が注目されます。

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