前編では、パワーハラスメント(パワハラ)が生じやすいとされる日本の職場文化の背景や、「改正労働施策総合推進法」(いわゆるパワハラ防止法)の概要について見てきました。後編では、政府の調査報告や報道をもとに、日本の職場におけるパワハラの現状について見ていきたいと思います。
厚生労働省のデータに見るパワハラ被害とその対応の現状
厚生労働省が2024年5月に公表した「職場のハラスメントに関する実態調査」によると、過去3年間に職場でパワハラを受けたと答えた労働者はおよそ5人に1人(19.3%)にのぼります。また、過去 3 年間にパワハラに関する相談があったと回答した企業は64.2%でした。
パワハラを受けた後の労働者の行動としては、「何もしなかった」が36.9%と最も多く、ハラスメントを知った後の勤務先の対応としても「特に何もしなかった」が53.2%と最も多くなっています。
この結果から、パワハラを受けたと感じている労働者も、それを把握している企業も少なくない一方で、積極的な対応が講じられていないケースも多いことが読み取れます。特に中小企業では、人手不足で専任の相談窓口を置くことができない、配置転換で被害者と加害者の距離を取るのが難しいなど特有の問題も生じており、十分な体制が整えられていないケースも少なくないようです。
一方、社外の公的機関への相談件数は増加しています。厚生労働省が発表した資料によれば、2023年度のパワハラに関する各都道府県労働局への相談件数は72,789件で、前年度の60,053件から約16%増加し、3年連続で過去最多を更新しています。前述した「職場のハラスメントに関する実態調査」では、パワハラを受けた後に労働局等の公的な機関に相談する労働者は3.1%と少数派でしたが、件数自体は増えていることが分かります。
労働者の意識の変化
外部への相談が増加している背景には、パワハラに関する知見が深まり相談しやすくなったことや、近年雇用の流動化が進み、転職先の選択肢が増えたことから、「今の会社にとどまるために我慢しなくなった」という社会の変化もあると指摘されています。
こうした変化は、企業に新たな影響も及ぼしています。近年では、パワハラ被害を理由に退職した従業員が、SNSや転職サイトの口コミで企業を非難し、企業のレピュテーション低下に繋がるというケースも見受けられます。実際に口コミが名誉棄損にあたるとして、企業が元従業員を訴えた事例もあり、企業にとっては「社内対応」だけでなく「外部からの目」への意識も求められるようになっています。
おわりに
各種調査や報道を見る限り、パワハラに関する認知や相談は着実に広がっています。それは、これまで表に出てこなかった声が出始めた結果でもあると考えられます。一方で、企業の対応や防止の仕組みにはまだばらつきが見られます。法制度の整備とともに、現場での「運用」がどう根づくかは、今後も注意に値する問題でしょう。
(参考)
- 「配置換えもできない…パワハラ防止義務化で模索する中小」(日本経済新聞電子版2022年5月26日)。
- 「パワハラ相談過去最高、人手不足が迫る職場改革」(日本経済新聞電子版2024年9月15日)。
- 「転職サイトで古巣を非難 口コミ投稿巡る訴訟 「独断と偏見が凝り固まっている」 パワハラか名誉毀損か」(日本経済新聞電子版2025年9月7日)。






















