上場維持基準の厳格化、2030年以降に適用開始
東京証券取引所(以下、「東証」といいます)のグロース市場では、上場維持基準に関する大きな改革が行われようとしています。改革の内容は、「2030年以降、上場から5年を過ぎた企業の時価総額が100億円未満の場合、上場廃止になる」というものです。
現行制度では、上場から10年を経過した時点で時価総額が40億円未満の場合に上場廃止となるため、今回の改正によって基準は大幅に厳格化されることになります。この改革は、パブリックコメントなどの手続きを経て、年内に正式に施行される予定です。東証の資料によれば、2024年末現在で、グロース市場に上場している610社のうち、時価総額が100億円に達していない企業はおよそ70%にのぼります。
グロース市場が抱える問題
東証では、2022年4月に市場区分の再編成が行われ、プライム市場、スタンダード市場、グロース市場の3つに区分されました。プライム市場はグローバルに展開する企業向け、スタンダード市場は規模や企業統治が十分な企業向け、そしてグロース市場は高い成長性を持つ新興企業向けの市場として位置づけられています。
しかしこのうち、グロース市場については、再編から一定の期間が経ったにもかかわらず、当初の狙いが十分に達成されていないと指摘されています。東証が目指しているのは、「高い成長を目指す」スタートアップ企業が集う市場ですが、現状ではそれが実現しているとは言えません。
特に問題視されているのが、「小粒上場」と呼ばれる現象です。これは、スタートアップ企業が、事業規模が小さいままIPO(新規株式公開)を行った結果、投資額の大きい機関投資家の資金を呼び込めず、上場後も業績や株価が伸び悩むという状況を指します。こうした小粒上場が起きる背景の一つとして、スタートアップ企業に早期の上場を迫るベンチャーキャピタル(VC)の存在があります。VCは出資契約の段階で、上場の希望時期を契約に盛り込み、投資回収のために企業に圧力をかけることがあります。
その結果、本来であれば上場によって成長資金を多様に調達し、さらなる事業拡大を目指すはずが、実際には上場時の時価総額が最も高く、グロース市場が創業者や投資家の資金回収の場となってしまっているという問題が生じていました。本来の目的からずれたこうした状況を是正し、「上場がゴールではなく、上場後の成長こそが本番」という意識を促すために、今回の上場維持基準の厳格化が行われました。
なお、変更後の「時価総額100億円」という金額については、機関投資家に対するヒアリングの結果なども踏まえて設定されたものであり、より多くの機関投資家の資金をグロース市場に呼び込みたいという意図がうかがえます。
100億円に届かない企業の選択肢
では、2030年以降、時価総額100億円という基準を達成できなかった企業はどうなるのでしょうか。いくつかの選択肢が考えられます。ひとつは、上場を廃止するという道です。もうひとつは、東証スタンダード市場への移行です。スタンダード市場では、上場維持基準として一般投資家が市場で売買できる「流通株式」の時価総額が10億円以上であることが求められており、この基準を満たすグロース市場上場企業も一定数存在します。さらに三つ目の選択肢として、東京以外の地方証券取引所への鞍替えも想定されています。
IPO依存からの転換へ
このように、東証が上場維持基準を厳しくしたことで、スタートアップ企業の「出口戦略」にも変化が起こると考えられます。従来はIPOが主な資金回収手段でしたが、今後はM&A(企業の合併・買収)や、未上場株を取引する「セカンダリーマーケット(未上場株取引市場)」など、IPO以外の選択肢がより重視されていくと見られています。特にセカンダリー取引は日本国内ではまだ未成熟ですが、今回の基準厳格化をきっかけに、その整備・発展が求められるようになるでしょう。













